2人の血友病の息子を育てて(東京都 仮名 谷口由紀子さん)

私は重症血友病Aの14歳の長男と11歳の次男を持つ母親です。
長男が血友病と診断されるまで、私自身が保因者だと知りませんでした。私の家族や親戚には血友病患者はいなかったので、診断されたときは驚き、とても戸惑いました。

突然診断されたわが子の血友病

長男が7ヵ月のとき、歯の生え始めでおもちゃを噛んでいたら口の中を切り、血が止まらず近くのA病院で受診し、突然息子が血友病だと告げられたのです。
思い返せば、少しあざができやすいと感じることはありましたが、初めての育児で血友病だとは夢にも思わず、大きなショックを受けました。
その日より、定期補充療法を行うことになりました。「まだ歩きもしない1歳未満の息子に定期補充療法は必要なのか、本当にこの病院に任せて大丈夫なのか」と不安や疑問を感じ、自分で血友病専門病院を調べてセカンドオピニオンを受け、血友病に詳しい先生から様々な意見をいただきました。
その中で、血友病に高い専門性をもつB病院が信頼できると感じましたが、自宅から遠く通院は難しかったため、B病院のセカンドオピニオンをもとにA病院と相談して定期補充療法から出血時補充療法に変更しました。

インヒビターの発生が発覚

治療開始から7ヵ月ごろ、口の中を切り全く血が止まらず検査したところ、インヒビターの発生がわかりました。
動揺するなか、すぐにB病院に連絡してインヒビターの発生を伝えると、幸いなことに入院できました。退院後は、B病院の治療方針や処方内容をA病院に共有してもらい、B病院の治療を継続することができました。

インヒビターの発生がわかってからは、出血対策をより念入りに行いましたが、出血することがしばしばありました。特に歩き始めてからの外出は本当に大変で、すぐ近くのスーパーに行くだけで関節内出血を起こし、1ヵ月入院したこともありました。
夫は出張が多く、実の母は長男の出産前に亡くなっていたので誰にも頼ることができず、当時は本当につらい毎日でした。
しかし、約半年後、免疫寛容導入療法によってインヒビターの消失がわかったときは、心から安堵しました。

2人目の妊娠による苦悩と決断

しばらくして、夫の仕事の都合でB病院の近くへ引っ越しました。そのころ、2人目の妊娠がわかりました。
妊娠がわかったとき、本音を言うと、「子供の性別が男だったら、血友病だったら、もう育てられないかもしれない」という思いでした。それくらい、長男の育児が大変だったのです。「産まない」という選択肢も脳裏をよぎりました。しかし、私に1人の人間の命を奪う権利があるのかと悩み、C病院の遺伝カウンセリングを受けに行きました。
カウンセリングで先生は、「様々な病気のなかでも血友病は生きられる病気。今は新しい薬もでてるから、その子は普通の人と同じくらい生きられると思うよ」と言ってくれました。私はそれでも不安が拭えず、「先生ならどうされますか?」と質問しました。すると、「僕だったら、育てるよ」と。いろんな病気を診ている先生がそこまで言うなら大丈夫、とその一言で出産を決意しました。夫も「病気があったとしても、兄弟がいたほうがいい」との後押しもあり、B病院で無事次男を出産しました。産後すぐに、次男も血友病と診断されました。
出産前はあれほど不安に思っていた2人の血友病の息子の育児ですが、次男はインヒビターの発生もなく、想像していたよりもはるかに苦労せずにすみました。

不安を抱えながらの幼稚園の入園

長男の幼稚園を決める際に、知人から血友病のために入園を断られたという話も聞いていたので少し不安はありましたが、偶然にも、申し込んだ幼稚園は以前血友病の子供たちを受け入れており、スムーズに入園することができました。
この地域では、医師が教育者に血友病勉強会を開催しており、幼稚園の先生方も血友病の十分な知識があり、出血対策も万全だったため、その後入園した次男も在園中に大きな出血はなく安心してお任せすることができました。

息子たちの血友病治療に対する考え

幼稚園入園前までは近くのクリニックの協力を得て注射してもらうこともありましたが、入園後は主に私が注射していました。長男・次男が10歳頃にB病院で2泊3日の自己注射の習得入院をしてからは、自ら注射をしています。
自己注射を開始してからも、適切に治療を続けられているため、長男はテニスの、次男はバスケットボールのクラブに入っていますが、スポーツの最中に出血をしたことはありません。むしろ、筋肉をつけることは関節内出血予防によいと考え、積極的にクラブ活動も勧めています。

息子たちが治療を拒否したことはありませんが、「やっぱりずっと打たなきゃいけないの?」と小さいころは何度も聞いてきます。そう聞かれる度になんとも言えない気持ちになりますが、「この治療は眼鏡をかけているようなものだよ」と答えています。補充療法は体の足りないものを補うことなので、視力を補う眼鏡と同じだという意味で伝えていますが、しばらく経つとまた同じことを聞いてきます。

血友病患者会の大切さ

現在普通の子供たちと変わらない生活ができている理由の1つには、患者会の存在があると思います。長男が1歳の頃からB病院の患者会に入会し、定期的に開催される集まりに参加しています。集まりには医師や看護師、臨床心理士の方々も参加され、血友病情報だけでなく、悩みや相談にも乗ってもらえます。
それだけでなく、血友病の子供たちをもつ親同士にしかわからない苦労や気持ちなどを分かち合えるので、患者会は私の精神的な支えにもなっています。

さいごに

これまでを振り返ると、長男が血友病だとわかってから、長男のインヒビターの発生や誰にも頼れない状況での子育てなど、大変なことがたくさんありました。次男の出産についても、本当に悩みました。
しかし、長男・次男は同じ血友病の兄弟をもつことで、血友病や治療について「自分だけではない」と思うことができたり、患者会ではかけがえのない出会いがあったりと、よいこともたくさんありました。
私は2人の血友病の息子たちを産み、育てて、本当によかったと思っています。