小学生になる頃、それまで何となく私は他の子どもと違うなと感じていたことが血友病だからだとわかりました。その後、就職し、結婚し、子どもも授かりました。これまでの私の体験を少しお話ししたいと思います。
小学校入学時に全校生徒にアナウンス
どうも私がみんなと違うと感じたのは幼稚園の頃だったと思います。その頃は出血もあって、通園も満足にはできていなかったこともあり、周りの大人の雰囲気や態度が、他の子どもに接するものとは違っていたからです。小学校に上がったときに、私のことを「怪我をしやすいから気をつけてあげてね」と、全校生徒に対してアナウンスされ、はっきりと病気のことを自覚しました。田舎の小さな小学校で、全校150人程度の生徒数であり、一堂に集めて伝えることができたからだと思います。また、田舎であり世間が狭く、周りは病弱な子どもだという認識を持っていたようで、ごく自然に受け入れられました。
私が進んだ中学校には、自分が通っていた小学校の他、2つの小学校から生徒が集まって来ていました。中学では、小学校のときのようなアナウンスがありませんでしたので、周囲に私の病気のことを知らない人間がほとんどでした。しかし、脚の調子もよくなく、体育の授業はいつも見学で、小学生の頃より学校を休むことが多くなり、クラスの子たちからは体が弱い子というようにみられていたと思います。幼稚園や小学生だった頃に比べて、自分が病気のことを強く意識するようになったのもこの頃だと思います。当時、みんなと一緒に体育の授業を受けられず、悔しかったことを今でも思い出します。
血友病のことはカミングアウトせずに就職
運動できず行動範囲が限られるハンディキャップを抱えていましたが、将来は働かなければならないという気持ちがありました。体力的には決して楽ではありませんでしたが、大学に進学しました。
就職する際に血友病患者であることはかなり大きな障壁になります。血友病に限らず、どのようなハンディキャップがあっても希望する仕事に就ける社会が理想だと思いますが、現実的な最適解を求めることは決して間違っていないと思います。
患者の会の先輩からも、就職試験の段階で病気のことを公言する必要はないと助言されていました。血友病の診療にかかる費用は全額公費負担となっていますから、企業の健康保険組合に負荷がかかります。患者数が少ないので社会的な認知度も低く、職場でどのように対応すればいいのかという戸惑いも生まれます。非加熱製剤が使用されていた頃のHIV感染の問題もあります。患者にとっても、どのように配慮してもらいたいかを説明することは容易ではありません。
私自身は病気のことは公言しないまま仕事を続けていますが、これが現時点で自分が出した最適解だと自負しています。
友達の紹介で出会った女性と結婚し充実した日々
大学を卒業して無事に就職もでき、一段落したせいでしょうか。30歳になった頃から、結婚について考えるようになりました。もともと結婚は無理だと考えていました。生まれてくる子どもに病気が遺伝するかもしれないということを気にしていたからであり、自分と同じような辛さを味わわせたくないと思ったからです。今とは違い、私が子どもの頃は痛みなどで苦しみましたし、それが結婚をためらう一番大きな理由でした。
結果的に私は幸運に恵まれたのでしょう。友達が紹介してくれた相手と結婚することができました。私は音楽が趣味ですし、彼女もそうでしたので、付き合っているときに交わしていた話題はもっぱら新しく出たレコードだとか、好きなアーティストのことでした。それで十分に楽しかったので、敢えて私から病気の話をするつもりはありませんでした。ところが、何かのきっかけで、今はもう思い出せないのですが、自分が血友病であることをカミングアウトしました。彼女は、今の妻ですが、それでも結婚しようと言ってくれました。そして、その後、子どもも授かりました。
子どもは男の子で、元気に育ってくれて今年小学校5年生になりました。仕事も順調で、今は家族3人、充実した日々を過ごしています。
人生のいろいろな岐路で患者会のメンバーや主治医の先生、心理カウンセラーの先生からさまざまな助言をしてもらいました。結婚については、当事者の二人だけで話し合って決めたことですが、患者の会で結婚している人がいたため、血友病患者でも結婚できるのだという意を強くしたことも事実です。
さいごに
今の血友病の治療法は、以前とは比べものにならないくらいに進歩しています。私が若かった頃のように出血を繰り返すことで関節症を起こすということも防げるようになったと聞いています。実際、患者の会などで若い人をみかけると、普通の人と何も変わったところがないと感じます。かつて、血友病患者にはハードルが高かった種類の運動もできるようになっていると思いますし、以前は通学通勤に長い距離、長い時間がかかるからと最初から諦めていた進学や就職も選択肢から外さずに済むようになっています。結婚についても普通に働くことができていれば躊躇する必要はありません。私がそのいい例だと思います。また、周りの仲間や支援くださる方々のアドバイスはとても参考になります。不安や疑問を抱いたら積極的に助言を求めることを勧めます。そうすれば、悩んでいたのは自分だけではなかったとか、みんなはこうやって問題を克服したんだとか、納得できる答えがきっと返ってきます。