インヒビターとは
インヒビターは血液凝固第Ⅷ(Ⅸ)因子のはたらきを抑える物質です。
血友病の治療では血液凝固第Ⅷ(Ⅸ)因子製剤が注射されるとインヒビターが発生することがあります。インヒビターが発生すると、現在使っている血液凝固第Ⅷ(Ⅸ)因子製剤の効果が弱くなり、出血した時に血液凝固第Ⅷ(Ⅸ)因子製剤を注射しても出血が止まらないことがあります。そのため、定期的にインヒビターの検査を受ける必要があります。例えば、インヒビターがある状態で頭蓋内出血などの生命の危険を伴う出血を起こした場合、止血が難しくなり、後遺症などのリスクが高まります。
インヒビターの発生率
インヒビターの発生率は、血友病の中では血友病Aが高く、また重症度分類の中では重症の血友病の方が高くなっています。
インヒビターの発生率は血友病Aで20〜30%、血友病Bで3〜5%といわれています。
※インヒビターが発生しても、自然消失することがあります。
また、免疫寛容導入療法(ITI療法)を行うことで消失する場合があります。
インヒビターが発生しやすい要因
インヒビターは、血液凝固第Ⅷ(Ⅸ)因子製剤による治療を開始してから、75回の注射までに作られる可能性が高いといわれています。とくに、最初の10〜20回の注射で、インヒビターが発生しやすいといわれています。そのため、定期的な検査が必要になります。
また一般的に、「重症と診断された方」に多く発生しますが、遺伝子変異の種類によっても発生のしやすさが異なります。
その他、インヒビターが発生しやすい要因として、主に以下の場合があげられます。
家族・親せきが血友病でインヒビターの発生がある場合
診断後早期の手術などで血液凝固第Ⅷ(Ⅸ)因子製剤を大量に注射した場合
なぜインヒビターが作られるの?
私たちの体には、細菌やウイルスなどから体を守ってくれている「免疫」という防御システムが備わっています。
体の中に見慣れないものが入り、「自分のものではない異物」と認識されると、「免疫」のシステムがはたらき、それを体の中から排除しようとします。
血友病の方のインヒビターが作られるメカニズム
1もともと血友病の方の体内には血液凝固第Ⅷ(Ⅸ)因子が不足しているため、血液凝固第Ⅷ(Ⅸ)因子製剤を注射すると、「自分のものではない異物」と認識し、インヒビターが作られます。
2このインヒビターが血液凝固第Ⅷ(Ⅸ)因子に結合し、第Ⅷ(Ⅸ)因子のはたらきを抑えます。
3血液凝固第Ⅷ(Ⅸ)因子製剤がはたらけなくなり、血が止まりにくくなります。
インヒビターの検査
血液凝固第Ⅷ(Ⅸ)因子製剤の注射を始めた頃にインヒビターが発生しやすいといわれています。インヒビターの検査は、注射を開始して、5回目からは5回ごとまたは1〜2ヵ月ごと、50回目からは3〜6ヵ月ごと、1年以上経過すると6ヵ月〜1年ごとを目安に行うことが望ましいといわれています。
注射の回数および期間 | 検査頻度 |
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5回目から | 注射して5回ごと、または1~2ヵ月ごと |
50回目から | 3~6ヵ月ごと |
1年以上 | 6ヵ月~1年ごと |
インヒビターの治療
インヒビターが発生した場合、これまでの補充療法では血を止める効果が弱くなります。目的に応じて、他の治療法が考慮されます。
目的 | 治療法 |
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出血時や手術時の止血 |
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出血の予防 |
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インヒビターの消失 |
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1血液凝固因子製剤による中和療法
これまで使用していた血液凝固第Ⅷ(Ⅸ)因子製剤の量を増やす方法です。
インヒビターに妨害される血液凝固第Ⅷ(Ⅸ)因子製剤を考慮して、インヒビターが発生する前よりも多くの量を注射することで、血を止めることができます。
2バイパス製剤による治療法
血液凝固第Ⅷ(Ⅸ)因子製剤を使わずに、第Ⅶ因子などの別の血液凝固因子製剤(バイパス製剤)を使う治療法です。バイパス製剤には3種類の製剤があり、出血した時や出血を起こさないための定期補充療法として用いられます。
バイパス製剤の使用により、インヒビターによって邪魔されているルートを避けられ、インヒビターに妨害されずに血を止めることができます。
3バイスペシフィック抗体による予防的治療
血液凝固第Ⅷ因子製剤の代わりとしてバイスペシフィック製剤を定期的に注射する治療法です。
インヒビターがあっても出血を予防することができます。バイスペシフィック製剤の治療中に出血した場合は、バイパス製剤であるrFⅦa製剤の注射がまず検討されます。
4免疫寛容導入(ITI)療法
インヒビターの消失を目的とした治療法です。
インヒビターをもつ血友病の方に対して、血液凝固第Ⅷ(Ⅸ)因子製剤を定期的に多くの量を注射することで、血液凝固第Ⅷ(Ⅸ)因子をもともと自分の体の中にあるものと思わせ、免疫がはたらかないようにする治療法です。